昭和49年9月27日付 

あのお年で

K化学工業の会長さんが写真作品展を大阪サンストア写真サロンで開かれることで、秘書役のUさんにお会いした。

「うちの会長は元気でっせ、カメラを持って、お寺の石段を上がったり、おりたり、石ころ道をアチコチ歩かれてネ、運動になりますなァ」と言われる。

私が、運動なればゴルフも相当のものでしょうというとUさんは「ゴルフも運動に違いないが、いくら芝生の平地を歩いても、しれていますよ」と。この時、ゴルフはお年寄りのやるものといわれているのを思い出して、ニヤリと笑った。

多分、会長にとって「ゴルフは芝生ばかり」それに相手のあるプレーよりも、ひとりで自由に風物を楽しむ方が、お好きのようである。会長は健康のためのカメラ散策であると謙遜(けんそん)されるが、写真は四季朝夕はもちろん、雪や雨の中のお作品もあり格調が高く奥行きは深い。洋画をかかれるのでデッサンが確かな詩情あふれるものであった。

Nさんは「帰ってきてから本を調べてネ、君、なかなか忙しいよ」と楽しそうに話される。撮影したその日の記録がアルバムに整理され、写真と共にパンフレット、拝観の印刷物までまとめられている。行かれた先に関係のある本、歴史、仏様、建築からこん虫、植物などの図鑑まで調べておられるようである。

我々は野道を歩いても足もとの草花の名前を知らぬ、また森の小鳥の声を聞いても、その鳥の名前から形も連想できない。こんなことではアカン、もっと勉強せんといかんナァと思った。

Nさんと同じくI会長とN副社長も写真展を開催した。いずれもお若いとは申し上げかねるお年で、写真を写しておられる。そしてますます、お元気である。そして展観をおすすめすると、誰方(どなた)も「イヤならべるほどのものではない」と言われる。

そして展観すると、それで十分に深い感銘を見るものに与える結果になり、大きな反響がおこった。これはいったいどこから、こんなことになるのか。

「素直に対象に向かい、人に見せるとか作品を力んで創るといった雑念が入っていない。それにお三人とも永年の修練があり、お人柄が写真に出ていていずれも格調が高い」ことなどが考えられた。

万事ソツがなく写ってはいるが、マンネリで感銘もない写真展と比較して感慨が深く、お三方の展観が次々と清新な風となり、一般にも良い刺激となった。

もう一つ、ぜひつけ加えたいことは、I、U両夫人が夫君といっしょに写真を写しておられる。Iさんは「ちょっと家内のカメラで写してみたので」と謙遜されるほどである。

奥様方がシャッターを押されたものにも手振れがない(写すときにカメラがゆれない)それに横位置は水平線が正しく縦位置でも垂直線が真っすぐで少しの狂いもないのである。チョットぐらい曲がっていてもよかりそうな所が縦位置でも曲がっていないのである。

全く恐れ入ることになった。

(写真家・ハナヤ勘兵衛)